石川遼が出場した「ANAオープン」最終日は、ドラマに満ちた1日となりました。舞台は北海道・札幌ゴルフ倶楽部輪厚コース。4日間にわたり繰り広げられた熱戦の結末は、プレーオフでの惜敗という形でしたが、彼にとっては間違いなく今季最高の収穫があった大会でもありました。
石川は最終日、首位と3打差からスタートしました。序盤の4番ホールでボギーを叩き苦しい流れを予感させましたが、すぐに持ち前の粘りで取り返します。5番パー5では、ラフからのアプローチをわずか1メートルにつける精度の高いショットを披露し、冷静に沈めてバーディ。続く6番ではピン手前3メートルに運び、見事にバーディを奪取。この流れを完全に自分のものにしました。
さらに9番パー5では2オンを成功させ、落ち着いたプレーでバーディを追加。前半を終えた時点で首位に並び、会場の雰囲気は一気に優勝争いの緊張感に包まれました。観客の目には、かつて“ハニカミ王子”と呼ばれた青年が、成熟した戦うプロフェッショナルへと変貌した姿が映っていたに違いありません。
しかし、ゴルフの神様は簡単には微笑みませんでした。後半に入るとショットの安定感が徐々に崩れ、14番以降は「バタバタだった」と本人が語る通り、パーオンを逃す場面や林に打ち込む場面が増えていきました。特に17番ではグリーン奥からの難しい状況に追い込まれましたが、チップインで見事にパーをセーブ。この粘り強さが、彼をプレーオフへと導いたのです。
勝負の舞台はプレーオフへ。相手は金谷拓実。第1ホールは互いに譲らずパーで並び、決着は2ホール目へと持ち越されました。石川はティーショットに3番ウッドを選びましたが、これが運命の分かれ目に。ボールは右のフェアウェイバンカーへ転がり、しかもアゴの近くという難しいライに止まりました。石川は「風が弱かったのか、思ったより飛んでしまった。ドライバーで越すか、3Uで手前に刻むか、クラブ選択は悔やまれる」と振り返り、勝負を分けたのはわずかな判断の違いだったと痛感していました。
2打目を8番アイアンで放ったもののグリーンには届かず、花道に止まります。続くアプローチもやや強めに入り、1.6メートルオーバー。最後のパーパットは惜しくも外れ、勝負あり。石川の挑戦は2位で幕を閉じました。
悔しさをにじませながらも、石川の言葉には確かな手応えが込められていました。
「最終日も自分がやりたいプレーはできた。冷静に戦えたし、プレーオフはほんのわずかな差。今年一番いい一週間でした」
大会を通してのパーオン率は84.722％で全体1位タイ。最終日はグリーンを外す場面も増えましたが、その都度アプローチでしのぐことができたのは、今年取り組んできた練習の成果。緊張した場面でも確かな手応えを感じられたことは、勝利に匹敵する大きな収穫と言えるでしょう。
21度目の優勝は逃しましたが、シーズン2度目のトップ10入りを果たした今回の戦いは、彼にとって復活の兆しを示す大きな意味を持っています。北海道のファンが送った惜しみない拍手は、敗れてもなお輝きを放った石川遼への賛辞そのものでした。
秋の国内ツアーはまだ続きます。今回の悔しさと収穫を胸に、石川が再び優勝の栄冠を掴む日は近いはずです。その挑戦の姿を、ファンはこれからも熱い眼差しで見守り続けるでしょう。
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