「渋野日向子 ― 再出発のフェアウェイ:武蔵丘で見せた“楽しむ心”と挑戦の原点」

渋野 日向子

渋野日向子

渋野日向子さんは、埼玉県・武蔵丘ゴルフクラブのフェアウェイへゆっくりと姿を現しました。秋の澄んだ空気が肌に心地よく、彼女の目はどこか遠くを見据えていました。ただ、その足取りはしっかりとしており、迷いやためらいとは無縁のものでした。髪を整えるために買ったヘアスプレーのほのかな香りが、微かに漂っていました。今週、彼女が選んだヘッドギアは普段のキャップではなく、サンバイザー。いつもと違うそのスタイルは、新しい挑戦を予感させるかのようでした。

「ジュニアのときも入れて初めてです」と、彼女は控えめに笑いました。その言葉の裏側には、小さな不安と大きな好奇心とが同居していました。サンバイザーという慣れない装いだからこそ、丁寧に前髪からトップにかけて整髪料で髪を固める。前髪が風に乱れることを防ぐことで、心の準備も整える。ゴルフにおいて、そんな細やかな「いつもと違う準備」が、実は大きな安心感を生むものなのです。

今シーズン、渋野さんのゴルフ人生は必ずしも順風満帆ではありませんでした。米女子ツアーのアジアシリーズ出場権を逃し、日本国内での秋のスポット参戦の日々が続いています。それでも、この「樋口久子 三菱電機レディスゴルフトーナメント」は、彼女にとってひとつの区切りの一戦となります。2週間後にはフロリダ州・ペリカンGCで開催される「アニカ driven by ゲインブリッジ at ペリカン」が控えており、来シーズンの“職場”を占う大一番。その前に日本での“ラストゲーム”となる可能性が高いこの大会に、渋野さんは全力で臨みます。

4年前、彼女はこの大会で通算6勝目を挙げました。歓喜に包まれたあの日、芝生には喜びの涙がこぼれ、声援が風に溶けていきました。その日の記憶を胸に、「なんか、あっという間に月日が流れていく」と彼女は静かに呟きました。2021年のQシリーズ直前、国内ツアーで通算6勝目を挙げたその時期から、もう4年が経ったのです。そのときの自分と今の自分を見比べると、自然と問いが生まれました。「たぶん、あのとき地に足をつけてやっていたんだろうな」と振り返る中に、成長へのヒントが隠れているようにも見えます。

このコースには、苦い記憶も残っています。前年にはホールインワンを達成しながら予選落ちを喫しました。勝利の輝きと挫折の痛み、その両方を知る場所だからこそ、ここは渋野さんにとって特別な場所なのです。「あのときは、たぶん地に足つけてやっていたんだろうなとは思う」と淡く笑いながら話すその姿には、初心を思い出す柔らかさがありました。

秋の連戦を経て、渋野さんは苦しみながらも学びを得ました。「スタンレーレディスホンダ」では決勝ラウンドに進めず、「富士通レディース」では初日首位発進を飾りながらも40位に終わり、「マスターズGCレディース」では47位という成績でした。それでも、彼女は言います。「つかんだというか、発見したものがいろいろある」と。結果だけを見れば上位に届かずとも、確かに変化や前進を感じているのです。

今大会を渋野さんは「3日間を通してそれを出しきれるかどうかの集大成」と位置づけています。ナーバスな状況を受け入れながらも、「やっぱり一番は楽しんでやることだと思う。そこを大事にやりたい」と明るい表情を見せました。その表情には、かつて“スマイル・シンデレラ”と呼ばれた頃の無邪気さが少し戻っていました。

装いも気分を変える味方になっています。今週、彼女が着用するのは、伝統的なトレフォイルロゴが輝く「アディダスオリジナル」。普段とは少し違うウェアに袖を通すことで、「服が変わると気分もちょっと上がる単純なタイプなんで」と、彼女自身が認めるように、気持ちのスイッチが入ります。ファッションは、彼女にとってもう一つの“メンタルコントロール”なのです。

そして、もうひとつ彼女が今大会前に大切にしたことがあります。岡山の実家に帰り、愛犬と走り回ったり、祖母に会ったり。彼女は笑顔でこう言います。「お尻をたたかれた。パワーをもらってきました」。その自然体な言葉からは、地元への深い愛情と、原点に立ち返る強さが感じられました。渋野さんにとって、下を向く理由は何ひとつないのです。

渋野日向子という選手は、勝っても負けても、人を惹きつける魅力があります。笑顔の裏に隠された努力、そして揺るがぬ心の強さ。彼女が大切にしているのは、ただスコアを伸ばすことだけではありません。「どんなときも楽しむ」その姿勢こそが、彼女のゴルフの核なのです。勝利は時に運に左右される。しかし、楽しむ心は自分で選ぶことができます。

今週、武蔵丘の芝の上で、渋野さんは再びクラブを握ります。芝の感触を確かめ、風の向きを読み、視線の先にはスコアではなく、「自分自身との対話」があります。たとえ結果がどうであれ、ここで感じたことが次につながる。それを、彼女は誰よりも理解しているように思えます。

試合前夜、静かなホテルの部屋で、彼女はスマートフォンを見つめました。ファンから届いたメッセージ、友人の励まし、家族の写真。温かい気持ちが胸に広がります。「応援してくれる人がいる限り、私は前に進める」。その思いが、渋野さんを再びコースへ駆り立てる原動力です。

朝、スタートホール。サンバイザーの下からのぞく瞳は、迷いを超えていました。ヘアスプレーでほんの少し固められた前髪が、風に揺れます。アドレスに入ると、世界が一瞬静まり返る。その静寂の中、打球音が響き、白球が青空へ吸い込まれていく。

「これが私の今のゴルフ」。渋野さんの中に、そんな確信がありました。過去の栄光にすがることなく、未来を恐れず、ただ今を生きる。その潔さこそが、渋野日向子という人間の魅力なのです。

ラウンド終了後、彼女は淡々とクラブを片付けました。笑顔はあったけれど、そこにはどこか凛としたものがありました。勝敗ではなく、「やり切った充実感」がそこにありました。「今日も全力で楽しめた」。その一言に、彼女の一日が凝縮されていました。

夕陽が沈む武蔵丘ゴルフクラブのクラブハウス。柔らかなオレンジ色の光が広がる中、彼女はサンバイザーを外しました。額にかいた汗をぬぐいながら、静かに笑った。その笑顔には、これから始まる次の戦いへの予感が宿っていました。

そして彼女は言います――「まだ終わりじゃない。ここから、また始まる」。

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