2019年、まだ20歳だった渋野日向子が世界を驚かせた。イングランド・ウォーバーンGCで行われた全英女子オープンにて、初出場・初優勝という快挙を成し遂げ、日本女子ゴルフ史に新たな一ページを刻んだ。“スマイリング・シンデレラ”と称された彼女の笑顔と、その無邪気ながらも力強いプレーは、世界中のファンを魅了した。
あれから6年――。
2025年、全英女子オープンはウェールズのロイヤル・ポースコールGCで開催される。リンクス特有の風と地形、海岸に隣接する難コースを舞台に、再び渋野が挑む。過去の栄光は今も会場に掲げられた写真として残されている。しかし本人は「もう記憶も薄れてる」と笑う。それでもその写真を見れば、「あのとき、何も考えてなかったんだな」と、あの瞬間の純粋な気持ちを振り返る。
その後の彼女の道のりは、決して順風満帆ではなかった。翌年のディフェンディングチャンピオンとして出場したロイヤルトゥルーンではまさかの予選落ち。カーヌスティ、ミュアフィールド、ウォルトンヒース、セント・アンド・リュースと続く中で、トップ争いに絡んだ年もあれば、無念の予選敗退も経験した。
特に印象的だったのは2022年のミュアフィールド。首位と5打差の2位で最終日を迎え、南アフリカのブハイとの最終組でラウンド。1打届かず優勝は逃したが、渋野の粘り強さと精神力が光った試合だった。
今季の渋野は厳しいシーズンを送っている。16試合中7度の予選落ち。現在ポイントランキング88位で、シード圏外に低迷中。それでも「全米女子オープン」では堂々の7位フィニッシュ。ここ一番で力を発揮する勝負強さは、健在だ。
「全英は、自分にとって本当に大事な試合。今年も、また4日間戦いたい」。その言葉に込められた思いは深い。ツアーの試合数も残り少なく、アジアシリーズにも出られない位置。そんな中で、この全英女子オープンは、起死回生の場でもある。
リンクスでの試合は、技術だけでなく、自然との対話でもある。風の読み、球の高さ、グリーンの硬さ、バンカーの配置…すべてが選手を試す。そのなかで、渋野は再び自分の“感覚”を信じて戦うつもりだ。
かつては無邪気に「出られるだけで嬉しい」と言っていた彼女も、今では“結果”にこだわるプロフェッショナルへと変化している。「6年経てば、まあ年も取るし、色々変わるよね（笑）」という言葉には、重みと経験がにじむ。
それでも、あの時と変わらないものがある。――ファンの声援。そして、彼女の中にある“楽しむ心”。
どんなに順位が落ちようと、どれだけ結果がついてこなくても、渋野のゴルフにはいつも“希望”がある。あの笑顔が、世界中のファンに勇気を与えてきたからだ。
ロイヤル・ポースコールGCのコース脇に広がる海。風に揺れる芝。クラブを握る彼女の手に、6年分の思いが詰まっている。
再び、渋野日向子のストーリーが動き出す。笑顔とともに、風を切って進むその姿に、誰もが心を打たれるはずだ。
「また光を放ちたい」――その願いが、再び世界を照らす日が来る。
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